2. 運動の重要性 〜自分に合った運動を楽しく続けていく秘訣〜

 1] ダイエットだけじゃない!運動の多様な効果効能

 「運動の効果」と聞いて、どんなことを想像しますか?

 脂肪を燃焼して引き締まったボディになる、筋力をアップして強い身体になるなど、外見を理想に近づけてくれたり、身体能力をあげるためのものというイメージが一般的かも知れません。

 でも、運動から得られる嬉しい効果効能は外見的なものに限りません。実は、心や社会性などの広義の健康においても、数々の嬉しい変化をもたらしてくれます。運動は、私たちの健康寿命さえも左右する、ウェルネスな生活を築く上で欠かせない要素なのです。

 アメリカの「良い病院ランキング」で何度も一位を獲得しているメイヨー・クリニック(1)は、定期的な運動がもたらす利点として、体重管理以外に以下の点を挙げています。

1) 病気や疾患の治療に効く

 運動することは高密度リポ蛋白質(略してHDL、いわゆる「良質なコレストロール」)を増やし、不健康を招く中性脂肪を減らす。これにより血液の循環を円滑にし、心臓病や高血圧などの循環器系疾患のリスクを下げる。

2) 病気や疾患予防や病状の管理に効果が期待できる

 心臓病、メタボリックシンドローム、高血圧、2型糖尿病、うつ病、不安障害、癌、関節炎など。

3) 気分をよくする

 運動をすることで脳が刺激され、様々な脳化学物質が分泌される。「ハッピーホルモン」と呼ばれるエンドルフィンが分泌されることにより、安心感や幸福感が増える。

4) エネルギーを高める

 定期的な運動で酸素や栄養素を細胞に届ける働きが高まり、心臓血管系の働きが高まる。心臓と肺の状態が良くなるとエネルギー(活力)にみなぎり、筋力を強化することで、持久力を高め、疲れにくくなる。

5) 睡眠の質を高める

 ほんの少しの運動を行うだけでも睡眠にまつわる問題が減少し、日中の疲労感も減る。

この他にも、

・運動を習慣化することで活力が漲り性生活を活性化させる

・友達や家族と一緒に運動をしたり、レッスンやハイキングなど外に出る機会が増えることで、社交的になる

というように、ライフスタイル全般において幅広い効果が期待できます(2)(3)。

2] 理想的な運動とは?

 それでは、一体どのような運動を、どれくらいの頻度と強度で行えば良いのでしょうか?

 厚生労働省が2013年に策定した「健康づくりのための運動指針2013」によると、18歳〜64歳の運動の基準は、「息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う」とあります。

 より具体的に運動の質・量・頻度を知るために、それぞれの運動の具体的な強度を表す「生活活動のメッツ表」と「運動のメッツ表」を参照しましょう。

引用元:(4) 厚生労働省

 1) 日常生活の中の運動を意識する

 身体を動かすことに没頭できる、運動に専念する時間を持つことは、そうするだけで瞑想をしているかのような状態になり、心身のリフレッシュに大きな効果をもたらします。

 けれども、これまで日常的に運動をしていなかった方や、運動を毛嫌いしているという方、忙しくて中々まとまった時間が取れないという方は、まずは日常生活の中で行っている「運動」をもう少し意識的に行うところから始めてみましょう。

 実際に「生活活動のメッツ表」をご覧になると、「日常生活でも意外と運動をしているんですね」と驚かれます。そして、これらの運動は、「運動をしている」という意識を持って行うことで、更に運動量を上げることができるのです。

 例えば、スーパーに買い物に行く時。お腹の筋肉を使うように大股で歩いたり、ご自身の体幹を意識しながら、かかとを床から少し浮かせて歩くだけでも、普通に歩くよりも運動量が上がります。買い物袋をダンベル代わりに上げ下げすれば、上半身の強化にもつながります。

 また、少し前に「ロングブレスダイエット」が流行ったように、呼吸の仕方を少し変えるだけでも、動きの質が変わってきます。

 日常生活の中の何気ない動作や行動に「意識」を加えること-すなわち、心と身体をつなげることは、ご自身をよりホールサム(健全)な状態へ導くための大事な一歩です。

 そうやってご自身の身体に意識を向ける時間を増やしていくと、例えこれまで運動に対するネガティブな固定観念があったとしても、身体を動かす気持ち良さを味わえるようになり、自然と運動量を増やしていきたいという気持ちが芽生えてくるはずです。

 2) 運動に専念する時間を持つ

 「もっと集中して運動する時間を設けたい」「運動を習慣化して持続したい」と願う方は、メッツを基準に考える場合、「強度が3メッツ以上の運動を、4メッツ・時/週行う」を目安に、ご自身の運動メニューとスケジュールを設定してみましょう。

 実際に、生活習慣病の発症リスクを低減させる十分な科学的な根拠のある運動は、現時点で全身持久力(できる限り長時間、一定の強度の身体活動・運動を維持できる能力)のみと言われています。

 日常生活の中での運動を意識することで、基礎体力や自己管理能力は高まる一方、やはり、それだけでは病気や疾患の予防・改善には効果が期待できないのです。

 まずは「身体を動かすことが好き・楽しい」という感覚、もしくは「運動を続けることで実現したい自分像」または「達成したい目標」を明確にして、運動を持続するための”Why”(理由)を明らかにしておきましょう。

 運動には様々な種類があり、運動不足病が懸念される今の時代は、自分自身のライフスタイルや体質に合った運動を定期的に続けることが大切です。

 まずは、今の自分自身の運動量から10分でも良いので、確実に達成できる目標設定をして、運動を習慣化していきましょう!

3] 楽しく続けられる運動の見つけ方

1) これまでを振り返

 これまでにやったことのある運動で、楽しかったことはなんですか?子供の頃に好きだった運動を思い出してみてもいいですね。もしかしたら、例えば音楽に合わせて踊る、自転車でお出かけする、景色の良い場所を歩くなど、「運動」と認識していないものもあるかもしれません。

 幼少期から今までの日常生活を振り返ってみて、「身体を動かしていて喜びを感じた瞬間」を思い出してみましょう。

2) 心身の状態にあわせて、最適な運動法を試

Heal:心身ともにだるくてあまりやる気が起きない時や、体調が万全ではない時は、ゆったりとしたヨガや軽いストレッチ、緑の中のウォーキングがおすすめ。

Uplift:集中力に欠ける時や、もっと強くなりたい時には、ランニングやキックボクシング。HIITをはじめとした筋トレに打ち込んだり、エアロビやダンスを試してみても良いかも知れません。

Empower:もっともっとパワーアップしたい時は、トレッキングやトレイルランニングに挑戦してみましょう!ただ、最近頑張り過ぎていて身体が硬直気味の人は、水泳やヨガで柔軟性をのばすことがおすすめです。

3) 自分に合う種類の運動を探す

 ひと口に運動と言っても、その種類はさまざま。これまで試してみて、「合わないな」と思った運動だって、もしかしたら無理をしすぎていたり、正しいやり方を知らなくて「楽しい」まで辿りつかなかった、ということもあるかもしれません。

 何もオリンピックを目指すのではないので、上手くできなくても良いのです。(目指すことがモチベーションにつながるのであれば、ぜひそうしてくださいね!)

 誰と競うためでもなく、自分自身に目を向け、労るために。いつもフル稼働している頭を休めて、心と身体を繋げる時間として、運動を取り入れてみましょう。

 時間、強度、頻度などによって、身体的な負荷や、運動から得られる「経験」も変わってきます。ご自身のその時の状態に合わせて、「楽しい」を基準に選んでみてください。

4) 運動を習慣化するための目標達成システムを準備する

 例えば、友達や家族に「今日から週3日、各30分ずつ運動するから!」と宣言したり、カレンダーにチェックして運動量を記録したり、ヘルスコーチなどのプロフェッショナルの力を借りるなど、ご自身が運動を続けやすい環境づくりが大切です。

 そして、運動をすることで、生活にメリハリが出る、気持ちが安定する、集中力が高まるなど、生じ得る様々な変化を見逃さず、しっかり一つ一つを認識して、祝福していきましょう。


 少しでも生活にムーブメント(動き)を生む。それはまさに、「運を動かす」ことになります。

 自粛生活でエネルギーが停滞しやすい今、ぜひとも身体を動かすことを楽しむ時間を習慣化して、心と身体の健やかさを維持していってくださいね!

——————————–MEET THE TEACHER——————————–

Kanako Coco Kurihara

ヨガ講師・ホリスティックヘルスコーチ

貿易業務を経験後、芝居を学んだことを通して心身の繋がりや健康に興味を持ち、ロンドンでヨガ講師、NY発祥ヘルスコーチの資格を取得。企業や学校で幅広い年齢層に研修を行ったり、スポーツ選手や女優等のコーチングを行う一方で、主にミレニアル世代の女性のライフスタイル改善に従事。摂食障害、(躁)鬱病、健康的になりたい等、様々な悩みや目標に寄り添いサポートを行っている。

<<参考文献>>

(1)Mayo Clinic, “Exercise: 7 benefits of regular physical activity”, https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/fitness/in-depth/exercise/art-20048389, 最終閲覧日:2020年5月8日
(2)Healthline, “Exercise, Depression, and the Brain”, https://www.healthline.com/health/depression/exercise#1, 最終閲覧日:2020年5月8日

(3)American Academy of Sleep Medicine, “Research notes: 5 surprising facts about exercise and sleep”, https://aasm.org/research-notes-5-surprising-facts-about-exercise-and-sleep/, 最終閲覧日:2020年5月8日

(4)厚生労働省、「運動基準・運動指針における検討会 報告書」、
https://www.mhlw.go.jp/content/000306883.pdf, P51~52