2. いつでも心が健康でいるために 〜メンタルヘルス〜

1] なぜ今メンタルヘルスが注目されている?

 近年存在感を増している「メンタルヘルス」。これを言い換えれば「心の健康」を主に指しており、精神障害の予防と回復及び増進を目的とした場面で使われています。WHOによる定義に従えば、病気がないだけでなく、自分の可能性を信じ実現でき、社会的にも心理的にも満たされている状況、とも表現できます。さらに簡単に言えば、心が元気であり、自分や自分の過ごしている環境もそれなりに好き!であることなのです。

 メンタルヘルスにおいて効果的とされているメソッドは検索すれば数多くありますが、現時点では医学的にこのメソッドが!と確立したものはまだありません。どのメソッドももちろん効果的ですが、それぞれのメソッドとの相性がその人その人によって違うからではないでしょうか。今回紹介するセルフケアメソッドは、医学的な観点からもセルフケアにおいて知っておいてほしい根幹–セルフケアの基礎知識としての位置づけもふまえて紹介させていただきます。

2] 身体のサインチェック

胸がドキドキする□ 肩が凝る
□ 頭やお腹が痛くなる□ 食欲が減る/食欲が増える
□ 甘いものが食べたくなる□ 夜なかなか寝付けない
□ 夜中に何度も起きる□ いつもより朝起きられなくなる
□ めまい□ 耳鳴り
□ 微熱□ イライラ
□ 遅刻が増える□ ミスや忘れものが増える
□ 不安な気持ちが増える□ 気分が落ち込む
□ 買い物が増える□ お酒を飲む量や回数が増える
□ タバコを吸い始める□ タバコの本数が増える
□ 何もうまくいかないような気持ちになる

これらの症状の中で経験したことのある症状はいくつありましたか?

これらはどれもストレスにより身体に起こりうる変化のごく一部ですが、誰しも少なくともいくつかは経験したことがあるかと思います。上記の症状は身体がストレスに反応して出るものであったり、ストレスから楽にするために身体が起こしている反応であったりします。

3] セルフケア 〜知っておいて欲しいこと〜

◉ストレスについて知る

ストレスとは、自分の周囲の状況が変わることによる外部からの刺激を指します。嫌なことだけではなく、天気等の日常の中の環境や、結婚や出産などの一見喜ばしいこともストレスとなります。下記の図を参照ください。

<図:社会再適応評価尺度>

出典:(1)Journal of Psychosomatic

 環境や状況の変化は大きければ大きいほど“ストレス”となり、その変化に適応するために人は変化していく必要があります。

 その変化に要する時間を求め、尺度として表したものが上図となります。この合計点数が過去1年間に300点を超えると何らかの病気になるリスクが高いとされており、150点〜299点でも中等度のリスクがあるとされています。自身が今経験しているストレスを把握し、変化が大きい状況に置かれているときには意識的にその他の回避しうる変化を避けることが望ましいと言えます。また、喜ばしいことでもストレスになることも意識しておくことも良いでしょう。

4] ストレスにより起こる変化を知ろう

 最初の導入部でも触れましたが、ストレスは多くの変化を身体にもたらします。しかしながら身体にはストレスに対して頑張って対処してくれる精密なシステムも構築されているため、すぐには病気にはなりません。ですが、ストレスの量が身体が対処しきれない程多くなってくるとまずは身体症状が出てきます。これらの症状が出ることはストレスに自分の身体が反応しているサインであり、心の健康バランスが保ちきれない状態になりつつあることを知らせてくれています。

 こういった状況では休息やストレスコーピングが必要である状態と言えるでしょう。ストレスコーピングについては後ほど触れますが、精神的な不調をきたし、身体面に症状が出てきた時にはまずは休養が大切です。気分転換や飲酒ではない、身体と心を3日程度休むだけでも身体は大きく回復する力を持っています。おかしいな、と思った時はまずは土日のお休み等に一日有給などをつけてゆっくり3日休んでみましょう。

5] ストレスコーピング 自分の対処法を知ろう

 ストレスに対する対処法を主に3種類に分けて考えることができます

1) 跳ね返す・我慢する (問題焦点型)

2) 逃す・認知の姿容 (情動焦点型)

3) 抜く・発散する(ストレス解消型)

1) 跳ね返す・我慢する

欲求不満耐性とも表現されますが、とにかくストレスに対して我慢して問題を解決していく方法です。

 この対処法が多い人は誰かにお願いするより自分でやってしまう方が、と思う方や、こんなこと頼むの申し訳ない…という気持ちになりやすい人。他の人にお願いする練習を意識的に行い、できた時には出来た自分を評価しましょう。

2) 逃す・認知の姿容

 自我防衛機制とも表現され、自身のものの見方を変えることにより問題に対処していく方法です。問題の解釈の方法を変えること等により感情をコントロールします。

 今はアプリでも手軽に自分の感情と考え方を客観的に見やすくしてくれるものもあります。こういったツールは1人でも考え方を変えていくトレーニングができてとても有効です。

3) 抜く・発散する

 飲みにいく、友人に愚痴を聞いてもらう、カラオケに行く等実際のストレスからは一旦離れて気分転換を図る方法です。

 私たちは日常の中でこの3種類のコーピングを無意識に使い分けていることが多いと思いますが、ストレスが強い時には、自分を少し俯瞰して見ることや他者にも相談することによりバランス良く他の対処法もないか振り返ってみましょう。

6] 専門家の力を借りた方がいいときはどんな時?

 先ほど述べたストレスにより起こる変化としてあげたものがしっかり休んでも2週間続いている場合には専門家の力を借りてみましょう。また、睡眠がなかなかとれない状況が続き、市販薬を買ったりお酒を飲まないと眠れなくなっている状態も受診の目安です。もちろん、2週間経過していなくても、違和感があればすぐに受診しても大丈夫ですよ。

<おまけ:自身のストレス対処の特徴をより詳しく!>

 ネットにも様々のチェックテストはありますが、中でもBSCP (The Brief Scales for Coping Profile) コーピング特性簡易尺度というテストはあなたのストレス対処の傾向を6角形で図式化します。これにより今までのストレス対処傾向もわかりますが、弱点がわかることによりストレス対処能力を向上させることもできます。綺麗な6角形を目指し、ストレスに対処するスキルを上げていきましょう。

7] 精神科医が勧める『今日から出来るSleeping Tips

 メンタルヘルスの維持において、良質な睡眠は医学的にも重要度はとても高いです。

◉快適な睡眠を確保するための10か条

1) 快適な寝室を作ろう(遮光、防音など)

2) 入眠前のリラクゼーション (入浴、読書、ストレッチなど スマホTVは×)

3) 自然に眠くなってから寝室へ移動 (眠くない場合は一度ベッドから出る)

4) 刺激物は避ける (飲酒(寝酒)、コーヒー、喫煙)

5) 「寝ないと!」と意気込まない 横になるだけでもOK

6) 朝は規則正しく起床する (朝方に寝付いたとしても早起きしましょう)

7) 運動習慣 午前の散歩は効果的!

8) 昼寝は15分〜30分 15時までに

9) 休日の寝坊は2時間まで

10) 睡眠薬も活用しよう(医師の処方が望ましい)

<おまけ:お酒と睡眠の関係性>

 お酒を飲んだ日にウトウトして気持ちよく眠くなる経験がある方は多いと思います。ですが、実際は朝方に何回も起きたり、翌日の身体の疲れが取れていなかったり、という経験はありませんか?飲酒は寝つきこそ良くなりますが、睡眠の質は悪くなります。

 実際にアルコール依存は1人で頑張りすぎてしまう真面目な人に多く、最初は不眠や不安を落ち着かせるために始まっていることが多いのです。睡眠薬は依存性が高く、危険な薬だと勘違いされている方もまだ多いですが、飲酒よりもずっと安全に、安価に、良質な睡眠が得られるため、1~9の方法を実践しても眠れない場合には気軽に専門医を受診することも検討しましょう。(精神科医の先生も睡眠薬を飲んでいる方も多いんですよ)

——————————–MEET THE TEACHER——————————–

Mari Yamada
精神科医

精神科医として病院での勤務と並行しながら大学院で研究を進めている。幼少期をアメリカで過ごし、ベトナムへ医学留学も経験していたこともあり、多様な文化や人に興味を持つ。「少しでも幸せな瞬間が増えるように」をモットーに日々診療に取り組む。

<<出典>>

(1)The Social Readjustment Rating Scale, Thomas H. Holmes and Richard H.RAHE, Journal of Psychosomatic, Vol 11,pp213-218 1967