INDEX

PART 1.「キャリアの原点。食文化と食養生をめぐる旅」

薬草茶の販売などを行う{tabel}を経営する傍ら、早稲田大学の院生として学び、さらには「薬草大学NORM」を主宰している新田理恵さん。経営者でありながら学生としての顔を持ち、さらには自ら学びを発信する理恵さんのこれまでとライフスタイル、そして将来のキャリア展望まで詳しくお伺いしました。

栄養学を志すきっかけ

現在理恵さんはご自分で起業をされていますが、身の回りの方でも商売をされていた方はいらっしゃいましたか?

実家が大阪で祖父母の代から続くパン屋を営んでいます。私自身も小学生の頃から店番などをしていました。

その後、中学と高校はエスカレーター式の女子校へ進学しました。大学は総合大学で、栄養学を専攻して管理栄養士の資格を取得しています。

栄養学を専攻しようと思われたきっかけはありますか?

高校二年生の時に父が糖尿病になったことと、身近な友人が摂食障害になってしまったことで、食べ物が凶器になってしまうことを知りました。私自身は食べることが大好きなので、そのことがとてもショックでした。

食べることは大事なことだと皆さん理解していると思うのですが、大事がゆえに使い方を誤ると凶器になってしまうこともあるのですね。

「食」という漢字は「人を良くする」という2つの漢字から成り立っているのですが、そのように人を良くするための食事を学びたいと考えて栄養学を専攻しました。


フードコーディネートとの出会い

印象に残っている授業はありますか?

フードコーディネーターの先生の授業がとても印象に残っています。

どのように季節の食材を取り入れるか、どんな食文化があるのか、テーブルコーディネートのテーマはどのようにして選定するのかなどを学びました。

薬膳の授業も面白かったですね。その後通信教材で学んだり、東京の学校に通うなどして勉強を進め、中国の国家資格である国際中医薬膳調理師を取得しました。

他にも、食文化の話を聞く機会もあり、そういったクリエイティビティのある内容にとてもわくわくしたことが印象に残っています。

また、大学で栄養学を専攻していると保健所や病院で1~2週間ほど研修をするのですが、日々献立を作って料理を作る、というルーティンの仕事よりも、外に出て飛び回る方が自分にとって相性がいいと感じていたこともあり、自由度の高いフードスタジオに就職しました。


フードスタジオに就職。忙しくも充実した日々

就職先のフードスタジオを知ったきっかけはどのようなものでしたか?

当時とても好きなレシピサイトがあって、そちらを運営しているのがそのフードスタジオの先生でした。関西ではフードコーディネーターの仕事が少なく貴重な一社でもあったので、私からアプローチをしました。

フードスタジオではどのようなお仕事をされていたのですか? 

フードフォトグラファーとしてカメラの仕事と、フードコーディネーターとしてレシピを考えるお仕事をしていました。

私のいたフードスタジオはカメラマンの先生と料理研究家の奥様が経営していたので、カメラと料理についてはすべてプロから学ぶことが出来ました。その経験から今でもストロボを組むなどの一通りの写真撮影業務は出来ます。仕事でカメラに触れたことが楽しくて、土日を利用して写真表現大学にも通いました。平日は仕事、土日はカメラの学校でとても忙しいけれど楽しく過ごしていましたね。睡眠不足になってしまい、時々朝の電車で座り込んでしまうことがありました。通勤時間も片道1時間半ほどかかっていて、通勤ラッシュも相まってとてもハードでした。

長い通勤時間にフードスタジオでの仕事、写真の学校。それだけでも大変なのに、フードコーディネーターとしての勉強もされていたんですよね。

そうですね。職場のスタジオも体育会系のムードがあって「業務以外でも自分で積極的に勉強しなさい」という空気感がありました。先輩は居残りや早出もしていましたね。食べることが仕事だと、良いものを食べることも勉強になるので、勉強のために良いレストランに連れて行っていただいたりもしました。

フードスタジオで働き始めて3年がたった頃、私の恩師でもあるカメラマンの先生が「うちで学べることはもうすべて学べたと思うので、あなたがもっと成長していくことを考えるのであれば、他の現場に行ってみる方が成長出来ると思う」と背中を押してくれたんです。そしてそのままフードスタジオを卒業しました。


旅の始まり。食養生と食文化を知ること

3年務めたフードスタジオを退職されて、その後はどのように過ごされましたか?

ずっとハードな日々を過ごしていたことと、ある程度資金が貯まったこともあって、少し休憩も兼ねて日本中や世界中を旅しました。世界の食養生や食文化を知りたい、という気持ちが強かったのですね。

各地を回る旅をしながら各地の料理教室に参加したり、旅をしていた1年間の中でも一時帰国したタイミングで撮影のお仕事をすることもありました。東洋医学や薬膳にとても興味があり、その延長線上でタイの伝統的な食養生やタイ古式マッサージにも興味を持ったので、タイでは古式マッサージの資格も取りました。

タイの古式マッサージの資格は4、5日レクチャーと試験を受けると取得出来るので、わりと簡単に取れます。レクチャーを通じて、タイの人たちの伝統的な体の捉え方や医療の基礎や思想に触れ、いろいろと考えることが出来ました。

タイの古式マッサージは、施術を受ける側もする側も体がほぐれていくように合理的に出来ています。相対性というか、持ちつ持たれつというか。関わっているみんながよくなる、という形で組まれているのがとても興味深かったです。

される側、する側どちらも心地よくなるという関係性が素晴らしいですね。その後の理恵さんの事業や、考え方のヒントになっていますか?

そうですね。関わる人たちが幸せにならないのなら、そのプロジェクトには関わっていく意味がなくなってくると思うので、意識しています。

まだまだ実践しきれていないところもありますが、今作っている商品も「作る人」も「素材を揃えてくれる人」も「食べてくれる人」も、そしてパッケージが使用後にゴミになった後のことまで含めて、全体性で捉えたいと考えています。