INDEX

PART 4. 仕事と家庭をうまく両立する

一般社団法人「全国料理教室協会」の代表理事を務めるほか、大学で講師をしたり雑誌にコラムを書いたりと多方面に活躍する精進料理家・麻生怜菜さんは、3歳と7歳の二人のお子さんの母でもあります。仕事と子育てを両立するコツは、「両立できない自分を容認すること」だそうです。母や妻としての麻生さんの普段の生活を伺いました。

法人を持っていても100%主婦

協会で個人でと活動される中で、子育てやプライベートとの両立が大変だと思います。

私は100%、自分を主婦と認識しています。長女が小学1年生で7歳、長男が3歳なので、子ども中心の生活です。主婦として家事育児を行い、空いている時間があれば法人の方をやるという感覚。子ども1、子ども2、旦那さん、法人1、法人2。5個のプロジェクトがあって、どれにどう時間をかけて育てていくか。バランスを取りながらその時々できる精一杯を自分のできる範囲でやる。オンオフの切り替えは特になくて、ベースは主婦活動ですが、プロジェクトが5つ走っているので、「今の時間は法人1で、次の時間は子ども1と2」という風に「今、この子やっています」という感覚です。子どもたちと法人が並列になるなんて変ですよね(笑)でも手をかければかけるほど広がっていく感覚が似ているんです。

どういうスケジュールで1日動いているか教えていただけますか

朝は午前4時に起きます。1時間くらいメールチェックやSNSの更新をして法人の時間に使います。午前5時から朝ご飯とお弁当を作って、子どもたちの着替えや学校に持っていくものを確認し、洗濯を回して家事をします。子どもを起こして朝ご飯を食べさせて、午前8時までに息子を園に送迎し、その後に娘を小学校に送ります。そこからがフリータイムで、午後3時までが法人1と法人2の面倒を見る時間。その後は娘をピアノや塾の習い事に送迎したり、延長保育に行っている息子を迎えに行ったりして、午後6時半~7時までに2人とも家に帰ってきます。お風呂に入れたり晩ご飯を食べたり、子どもの宿題をみたり、寝かしつけで絵本を読んだり、と家族の時間をすごして、午後9時半ごろに子どもたちが寝るので、そこから午前0時まではまた自分の時間です。子供と一緒に寝落ちることも多いですけどね。夜は本を読んだりSNSを見たり好きなことをして過ごします。子供の生活リズムを整えるために、時間配分は完全なルーチンワークです。

 

使えるサービスはとことん利用する

家事は基本麻生さんが全てされているのですね。

ですね。夫は「手伝って」と言えば手伝ってくれますけど、私がそれを言わないので。なので、自分のキャパを超えた分は、外部のサービスを利用しています。子どもが生まれたばかりの頃は、週1回2時間、掃除をお願いしていました。丸1日家をあける日も月1〜2回あるので、そのときは私の母や、旦那さん、シッターさんに子どもたちのお迎えと夕食をお願いしています。どうしようもないときが必ずあるので、ベビーシッターやファミリーサポート、病児保育も活用します。すぐ対応できるようにリストを作って備えています。先日は料理教室がある日の朝に子どもが熱を出しちゃって。病児保育のリストに上から電話を掛けていきました。リストがあるとスムーズに進みます。

両立するためには、トラブルも見越して準備しておくのが大切なのですね。

はい。なので、子どもたちを予定外にシッターさんに預けたりすることを想定して、最近は赤字になる案件は受けられないと決めました。以前は、来る仕事は全てありがたいとお受けしていましたし、引き受けることで世界が広がっていくのは重々分かっているのですが。毎回、申し訳ないし、本当はやりたいと思う気持ちと葛藤しながらお断りしています。昔、妊活を3年くらいしていた頃、流産を経験したことがありました。「仕事を受けすぎたがために流産したのかな」とどうしても気になってしまいました。体のことも考えて「このくらいよね」と調整して受けているつもりだったのですが…。現在も、子供が突如コロナ休園になったりで、日中に子供と一緒に過ごして、夜中に事務作業しなければならない状況になったりで、睡眠不足が続いたりすると、受注したことを後悔したりします。仕事と家事育児の両立のペースはトライアンドエラーでいまだに模索中です。

 

両立できない自分を「まあいいか」と思おう

両立の上で大変なことや課題はありますか

課題は山積していますね。タスクはいっぱいあって、できないことがほとんどです。それを自分の中で、どう折り合いつけるのかが難しいです。徹夜してやりすぎちゃうと、寝坊してお弁当作りに響いちゃうとかね。徹夜明けのお弁当が雑すぎて、記録用に撮っている写真を後日見返した時に、自分で笑っちゃったりします。

現段階では、私の優先順位は、まず育児。子どもの生活リズムを崩さないというのが最優先。となると、自分の仕事を諦めているような面も正直あります。「この論文を読んでおきたい」「レシピ整頓したい」「S N Sも更新したい」とか思いますが、その1割もできていません。受けられない。できない。でも「まぁいいか」くらいの精神で、続くように粛々とやっていこうと思っています。

今最優先にある子育てが一段落すれば、働き方も変化しますか。

子育てが落ち着いたら、できた時間で今持っている法人2つを大きくしたいです。もっと大きくなればそのおもしろさややりがいが一層増えるだろうと思っています。ただ、今3歳の息子が中学校を卒業するくらいまでは子育て優先の生活が続きますかね。もう1人子どもがほしい気持ちもあるので、いつになったら働き方が変化するかまだ分かりません。

女性の経営者に仕事と家庭の両立の話を聞くとき、仕事中心の生き方が多かったので、生活を中心にしながら経営の仕事をする麻生さんの生き方は「それもできるんだ」と、いいメッセージになります。

仕事中心にはできてないと断言できます(笑)仕事面で足りないことがたくさんあるのは認識しています。「両立できていない」と葛藤しながらも「まあいいか」と思えるくらいなら、このスタイルでも続けていられるような気もしています。自営は、責任が全部自分に来るので、社員のように何時から何時で勤務しなければいけないという時間的制約がない点は、子育てには向いているとも言えます。逆に、動かなかった分の売上がゼロになるとか、案件が進まないということもあります。どの部分を重視するかは個人の受け取り方次第。私の場合は、家事育児の隙間時間で働きたいから、自営を続けるという道を選んでいるというだけです。そういう観点なら、自営もハードルが低いですね。

1度壊れるまでやってみる経験も必要

やりすぎてしまう人も少なくないと思います。アドバイスをお願いします。

仕事や私生活で、頑張りすぎてしまう人が多いということですよね。頑張りたいと思って、頑張った結果、体調や心を崩してしまったり…。私自身も20代後半に、仕事しすぎて自滅しました。そういう時は、周りが「やるな」と言っても、大丈夫と思って突き進んでしまうんですよね。だったら自分で気付くまでやるしかないし、周囲も見守るしかないですよね。

料理教室でも、意気込んで準備を始めてパンクしてしまった先生は結構いらっしゃいます。「今から料理教室開くぞ!」と目標高く準備を始めてみたけれど、手いっぱいで収集できなくなってしまって、「もうできません」と辞めてしまう人、何人も見てきました。

自滅するくらいなら、そこまでハードルを上げず、細く長く続けた方が良さそうだと俯瞰するとわかるけれど、自分のこととなるとうまくいかないことって、いまだに私自身しょっちゅうあります。私自身、育児ばっかり、仕事ばっかり、加えて最近は子供のP T A活動ばっかり、などバランスは日々偏っているので、反省しながらの毎日です。

結果がどうであれ、挑戦したことを良しと認めて、次の糧になると自分のご機嫌をとるしかないですね。

すごく勉強になる話ばかりでした。そのモチベーションはどこからくるんですか。

旦那さんが、おもしろい人が好きなんです。だからおもしろい人であり続けたいというのが私のモチベーションですね。出会った19歳の頃からそう思っています。あと、投げかけられたものに対してゼロからイチを作っていくことが好きなんです。「こうやったらもっとよくなる」を探すのが楽しいと感じます。商材でも、人材でも一番伸びると思う方法を提案して実行する。家族に対して、会社に対して、全力でサポートしていくのが好きなんだと実感しています。