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PART3. 組織を続けるために気をつけている3つのこと

任意団体から始まった一般社団法人「全国料理教室協会」は、全国に約350人の登録者がいる大きな組織に発展しました。「家庭が中心」という主婦が多数の組織だからこそ、「経営には工夫が必要」と代表理事の精進料理研究家・麻生怜菜さんは説きます。個人ではなくチーム単位で管理をする「アイドルグループ・AKB体勢」や、社員を置かない運営方法など独自の理論を詳しく伺いました。

全国料理教室協会は「AKB」を目指す

協会の先生は、子育てが落ち着いた主婦の年代層の方が多いと伺いました。家庭の事情もある中で、案件をきちんとこなしていくためにどんな工夫をされていますか。

個人単位で扱わないのが協会を運営する上での私のモットーです。常日頃、登録している先生たちには協会を「AKBみたいにしよう」とお伝えしています。AKBと聞けば皆さん知っているグループ。激戦のオーディションを合格して、歌とダンスが上手ですよね!と誰もが周知している。その中から、選抜メンバーが毎回出てくるのですが、メンバーが入れ替わってもクオリティは一定に保たれて素晴らしいですよね。

全国料理教室協会もそうなったら良いなと思っていて、所属している先生は、どの先生も知識があって、料理も上手!そんな組織になったら良いなと思っています。クライアント様から見ても、協会に所属している先生であれば、どの先生にお願いしても良いという状態を作りたいです。

チーム全体が良いという状態にしたいのは理由があって、先生個人が家族を中心に動くからこそ、家でできる料理教室講師としての活動を選択しているので、家族に何かあった時は、できればそちらを優先したいし、優先してほしいと思っています。そのために、最初からチームとして動くようにしています。家族、特に子供はすぐ熱を出したり、怪我をしたり、今だとコロナ休園になったりしますからね。チームであれば、有事のときは別の先生が仕事をカバーできます。例えば、現在進行中のチームだと「おいしい酢研究会」。この研究会には、常時10名ほどの講師が所属をしていて、先生方は、レシピを作ったりアンバサダーとしてS N Sで活躍してくださったりしています。チームで動いているので、できる先生ができる時にできる量をこなします。クライアント様にも、チームとしての報告ができるので、安定した質と量がお約束できると思っています。

おもしろいです。1人ずつ明確に割り振るというよりは、チームで課題をこなす形ですね。

はい。1人1人の先生の個性を生かして、日頃の活動は各々だけれど、時にチームになったらもっと大きなことができると思ってもらえるチームを作っていきたいですね。その先に、個人名で有名になっていく講師が出て、「1人で独立するので協会の所属を卒後します」という先生がどんどん出てきたら、もっと素敵だと思っています。

チームの品質を保つのも大変な側面があると思います。

何度もお仕事をお願いしたことのある先生や、所属して間もない先生など、チーム内の構成は、毎回気を配る点ではあります。この先生は半年後から子育て忙しくなりそうだな〜とか、この先生はこの時期は繁忙期だなとか。先生方のご活躍を予想して、その上でチームとしての目標を立てて、クライアント様に提案したりしています。

 

良い意味で期待しすぎない「孫理論」で組織を回す

主婦という生活にあわせて無理なく働ける環境作りが長続きの秘訣なのですね。そのほかに気をつけていることはありますか?

のびのび動ける環境づくり。私の中で「孫理論」と呼んでいます。この理論ができたのは、20代の頃に携わったレシピサイトの立ち上げのお仕事がきっかけです。あのときの私、組織内ですごく怖かったと思います。特に社長に対して、喧嘩ごしに自分の意見を言ってばかりいました。「こうなってほしい」「これをやったら絶対に伸びる」という思いが強くて、その気持ちをダイレクトに伝えていました。でも採用されない。すると「こんなに頑張っているのに」とか「全力で命削りながらやっているのに」とか「私が言ったやり方ならうまくいったのに」と思ってしまい、自分で嫌になって1年で辞めてしまいました。このときに、「正論だけダイレクトに言っても組織は良い方向にいかない。個々には事情があって、全力で動けない日もあるし、モチベーションがあがらない日もあるし、それが良いと思っていても選択できない大人の事情もあるよね」とようやく分かって反省しました。どうすれば気持ちよく周りが動く空気が作れるのか、本当に悩んで考えました。結果、いい意味で他人に過度に期待しないことを学んで、「孫理論」と名付けています。

孫理論ですか。

はい。親って自分の子どもには叱りますよね。子どもが素敵に育ってほしいとか、強い思いがあるからつい言葉が出てしまいます。危険じゃないことなら、「認めて育てる」でいいと頭ではわかっているのに、自分の子どものこととなると話は別で、やっぱり口が出てしまうんです。ところが、おばあちゃんになって孫相手となると、ただただかわいいとなる。「いいんだよ」「よしよし」と。甘やかしているようだけれど、孫にとっては、おばあちゃんの方が話しやすかったり、自分が悪いなと思ったことを相談しやすかったり。結果、おばあちゃんの方が子育て上手ですよね…。

組織も同じで、以前の私のように、あまり言いすぎると周りが凍りつきますよね(笑)そして動きにくくなるんだろうと思います。「ああした方が良い」「こうした方が良い」と細かく目くじら立ててものびのび育たない。大人になるとなおさら、ガツンと言われると「でも…」と思うところが出てきちゃいます。だから、基本的には、「孫理論で。いつもおばあちゃんの精神で」を心がけるようにしているんです。実際おばあちゃんになったら、「思っていたのと違うな」となるかもしれませんが。

「自由にしていいよ」と受け止める姿勢ですね。

はい。逆に、本当に近い先生には、孫理論の話をした上で、時にはっきり言うこともあります。年に1~2回くらいね。今の事務局の先生や、何度も一緒にお仕事している先生とか。私からは、ずっと並走していきたい先生だと思うと、相変わらず「こうした方が良いよ」と、つい言ってしまうのですが、怖いと思われているかもしれません。

そういう風に言われると、「期待されている」と前向きに感じますね。クライアントの企業に対して心がけていることはありますか?

私の仕事は、関わってくださる会社が、より伸びていくことをお手伝いしていくことだと思っています。

もともとリクルートで不動産の営業をしていたので、その商品がどれだけ売れたかや、どうすれば売り上げを伸ばせるかがすごく気になります。クライアント様には「こうすればこの商品伸びると思います」と熱く語ります。クライアント様の商品を自分自身が好きになって、より魅力を引き出すために何をしたら良いのか考えることが好きなので、それにお付き合いしてくださるクライアント様との出会いがあったら良いなと思っていますし、お節介なことを言い続けていきたと心がけています。

 

「子育て優先」のため、社員は置かずにセーブする

リクルート時代の経験が活きているのですね。現在の協会に社員は何人くらいいるのでしょうか。

社団は設立時に理事を立てる必要があります。代表理事の私に加え、お世話になっている2人の講師に理事をお願いして設立しました。そのほかの先生は全部案件ごとに業務委託する形式なので、ファンクッキングラボの頃と同じで社員はいません。社員ではないので、忙しい時期だったり、興味がないなら受けなくていい。先生に「これやる?」と聞いて「うーん…」という反応だったら違う人に回す。その辺はドライに対応しています。振り方がゆるやかなので、ちゃんと納期通りに仕上げる先生もいらっしゃるし、そうでない場合もある。社員を入れた方が、組織が伸びるのは自分でもよくわかっているのですが、子育てとのバランスを考えると、現段階でこれ以上広げられないという限界も感じています。やりたいことは山ほどあるのですが、いまひとつ社員を置く勇気が持てなくて、、子育てが一段落するまでは、このスタイルが私の心地よいペースだと思っています。

協会で多くの案件に取り組まれて、やりがいはどういうときに感じますか。

やっぱり、何か成果が出たときですね。結果として残ったときに「ああ、よかった」と思うことが多いです。チームの先生たちも「これやってよかった」と感想を聞くと嬉しいなと思うし、クライアントからも感謝されるとさらに嬉しいなと思います。そういう成果や感謝の言葉があったとき、辛かったことも吹っ

飛びますし、プロジェクトとして1つ完了したやりがいを感じます。