INDEX

PART 1.「家庭が優先」の主婦が活躍できる社会進出を支える仕組み作り

麻生さんは、一般社団法人「全国料理教室協会」を立ち上げ、所属する約350人の先生たちをまとめながら組織運営をしています。他にも大学で食文化を教えたり、雑誌にコラム執筆をしたりと幅広く活動されながら、2人のお子さんを育てる母でもあります。経営のコツやキャリアの活かし方、子育てとの両立について話を聞きました。

全国の料理家350人がつながるコミュニティ

まず、今経営されている団体について教えてください。
「全国料理教室協会」という一般社団法人で、料理教室をしている全国の先生たちをつなぐコミュニティを運営しています。3年ほど前に立ち上げて、私が代表理事に就いています。協会のサイトからは、料理のジャンルやお住まいの地域など目的に合わせて料理教室を検索できるので、先生たちにとっても集客しやすい仕組みです。現在は約350人の先生が登録しています。協会の中では、企業様から製品のPRの依頼を受けたときは、研究会を作るなどチームとして稼働し、レシピを開発したり、SNSで発信したりしています。

料理の先生同士がつながるコミュニティですね。おもしろいアイディアです。
自宅で料理教室を主宰している先生って、子育てがひと段落した世代がとても多いです。子育ての期間、しばらくは専業主婦だった方が、子どもがある程度育った後、できた時間で何かしようとなった時に、お家で料理教室をするという道を選ばれます。ただ、問題点が集客です。私は今38歳ですが、もっと上の世代だとネットが課題になっている先生もいらっしゃいます。なので、協会内にサイトを作ったり、料理教室をするためのノウハウを学んだりできる。さらに「協会の認定講師」という肩書も持てるという状態で、ノウハウゼロから料理教室を始められるようサポートしています。子育て終わった自分の母を見て、「何かできる力がたくさんあるのにもったいないな」と感じることがありました。女性がもっと社会進出すれば経済も回るし、料理だけでなく子育て相談にものってくれるような街のお節介おばさんみたいな人がいっぱいいたらいいなという思いです。

何かしたいけど、何をしたらいいかわからない女性って少なくないですよね。その自立をサポートする取り組みで素晴らしいです。麻生さんは協会のほかにもご活躍されていますよね?
日本大学の生物資源科学部で非常勤講師をしています。「日本食文化史」と、人間がなぜおいしいと感じるのかを教える「おいしさの科学」の2つの授業を受け持っています。私は法学部卒ですし、生物については学んでこなかったので、初年度は高校の生物の教科書読破からはじまって、論文を読んだりしながら授業内容を作りました。最初の年は授業の内容を原稿に書きだして暗記しました(笑)、7年経った今でも、学びたいことはまだまだあり、現役の学生には知識で負けたくないという気持ちで臨んでいます。ほかには、和ごはん研究家として、精進料理を中心としたレシピや商品を開発したり、本やコラムを執筆したりしています。

お寺に嫁入り リクルートの営業マンから精進料理の世界へ

元々料理に興味があったのですか。
全然ないです(笑)結婚を機に、必要に駆られて始めました。夫の実家がお寺だったので、檀家さんが集まる婦人会で料理を作るお手伝いをさせてもらいました。「ご供養食」という特別な料理です。結婚するまでは仕事が好きだったこともあって、全く料理をしておらず、「これはまずい」と思って始めました。インターネットで「料理」と検索して一番上に出てきたのがクックパッドだったので、当時営業マンとして働いていたリクルートを辞めて転職しました。「ここなら料理のことが分かるに違いない」と思って。そして、まだ全然技術はありませんでしたが、自宅で週末に料理教室をするようになりました。

入社の経緯がおもしろいですね。料理教室も早速始められてすごい行動力です。
料理を作るようになってから、ブログにご飯の写真をアップしていました。そしたら夫が、「精進料理を学んでいるんだから、精進料理研究家として書いたらおもしろいんじゃない?」とアドバイスをくれて、その肩書でホームページを作ってくれました。作ったからにはやるしかないので、「週末に精進料理教室をします」とブログやホームページに書きました。そしたらマニアックな方にヒットして、ちらほら生徒さんが集まるようになりました。平日はクックパッドで働いて、週末に自宅で料理教室。リフレッシュの時間という感覚でした。

現在の「精進料理研究家」という肩書はご主人のアイディアだったのですね。打ち出し方がユニークです。料理の勉強をしようと入社したクックパッドでは、どういう仕事をされていたんですか。
編集の仕事をしていました。結婚後、家事と両立したいと思ったのですが、そんなに器用ではないので、「家庭のこと=家事の延長線上にある仕事がいいな」と安易に考えての転職です。ともかく、料理ができないと檀家さんたちの婦人会に参加してもやることがないと思ったので、料理の勉強ができる会社を選びました。でも、クックパッドはプログラミングの知識が難解で、長く続きませんでした(笑)

正社員を辞めて子育て優先の働き方へ移行

クックパッドの後はどんなお仕事をされていましたか。
クックパッド以降は業務委託中心に移行しました。ABCクッキングの料理講師や、日本フードアナリスト協会で座学講師をするようになり、時間ができたので週末の料理教室を少しずつ平日にも増やして、個人で動く働き方に変えました。ほかにも、「Nadia」というレシピサイトの立ち上げに関わったり、「フードスタジアム」という飲食店向けのサイトでディレクターをしたりと、3年ほどは業務委託という形で仕事をしていました。

業務委託はどのような経緯で依頼が来るのですか
食の仕事をしようと決めた時に、資格をいくつか取得したのですが、所属していた協会さん経由でのお仕事から始まりました。そこからさらに紹介が続いたという感じです。
レシピサイトNadiaは、創業者の社長さんがリクルート時代の先輩だったんです。食系の仕事をしていたのを見かけて声をかけていただきました。立ち上げ時から、料理家・料理研究家がレシピを紹介していて、一定のクオリティがあるサイトを目指していました。素敵なレシピを書いている先生に直接声をかけたり、自分でもレシピを書いて投稿したり、事業の立ち上げ方についても活動しながら肌で学んだように思います。今の協会の在り方は、この時に学んだ経験が大きいと思っています。

いろんな仕事をされてきたのですね。全国料理教室協会の話に戻りますが、大きな組織で事業を展開されていくことについてご家族の反応はいかがですか
夫は、私の仕事のおもしろい部分以外には興味を示さないですね。運営面には特段興味がないようです。週末にワインを飲んだりしている時に、「こういう案件やろうと思うんだよね」と私の方から探りを入れて、「いいんじゃない」と言われたら「なるほど、これは進めていいのか」と認識してやるようにしています。そういう会話がたまにあるくらいです。私はもうちょっと突っ込んでほしいと思っているのですが、聞かれ待ちです。家庭に入ってほしいと言われたらそうしようと思っているのですが、「時間が余っているなら好きなことすれば」という雰囲気なので、「面白いことしてるね」と言われるまで頑張ろうと思っています。

「好きにしていいよ」ということですかね。旦那さんはどんな仕事をされていますか。
新規事業を提案する会社を経営したり、ゲノム解析の共同事業に取り組んでいたり、まとめると自営業です。ニュースサイトの役員や芸能事務所の社外取締役もやっています。あと、芸大に通っているので学生でもあるんです。

旦那さんもお忙しいですね。
そうですね。忙しいながらも社会で活躍している主人を見て、とても誇らしく思っています。私は主婦業優先で動いているので、時間を自由に使っている姿を見ると羨ましく見えることもあります。「家庭が優先」の主婦の在り方は、私自身、模索しながら進んでいるところです。