
INDEX
PART3. 競争ではなく調和をーサステナブルで軽やかな女性のワーキングスタイル
まだ記憶に新しい2021年の東京オリンピック。コロナ禍での開会は賛否両論が起こりましたが、選手たちの素晴らしいパフォーマンスとともに、大会のコンセプトである「多様性と調和」が私たちの記憶に残りました。
また、世界が掲げているSDGsの目標には「ジェンダー平等」が挙げられています。国際的にも「人々の個性や尊厳を大切にしよう」という気運があり、女性がさらに自由に、軽やかに生きるための追い風が吹いている時代だと言えます。
ナチュラルライフコーチである岡野真弥さんのコンセプトは「自分らしく、軽やかに」。個性を尊重し、何ものにもとらわれず、自分の感性を大切にする岡野さんの生き方は、令和の時代にマッチし、多くの女性の共感を得ています。
自分らしく軽やかに生きるために、岡野さんは日々の生活やビジネスにおいて、どのようなことに気をつけているのでしょうか?第3回目のインタビューでは、岡野さんのサステナブルなワーキングスタイルについて話を伺いました。
コーチングでサポートしたい女性像
岡野さんはどのような事業を行っていますか?
私はナチュラルライフコーチとして起業し、個人や企業のクライアントに、植物の恵みを取り入れたセルフケアやコーチングのサポートを提供しています。このようなサービスを提供しようと考えたのは、自分自身が会社員時代に過労や体調不良を経験し、いろいろな試みをしてきたことがあります。20代で会社員を辞め、植物療法士や薬膳、コーチングの資格を取る中で学んできたことを統合させて、クライアントのお一人お一人に合った癒しを提供したいという思いで活動しています。具体的には、健康経営や組織の人材開発の形でクライアントにご依頼を頂いて、セルフケアやコーチングを統合したサービスを提供しています。
岡野さんのコーチングではどのようなサポートをしていますか?
自分自身を癒すときには、心と体をケアするとともに、もっと深い部分を見つめなければならないと思うんです。もっと深い部分とは、自分の信念や精神的な部分です。今の日本社会では、私もそうだったのですが、誰しも「こうしなければならない」「こうでなくてはならない」という義務感や自責の念に駆られて仕事していることも少なくありません。しかし、売り上げや他者からの評価といった目先の成果だけでなく、人生の目標設定をするためには、自己実現への足かせになっている「制限」や「思い込み」を外す必要があります。
また、自己実現には人間関係も大切。どのような相手と一緒に働きたいか、どんな人間関係を求めているのか、クライアントの内なる思いに耳を傾けるようにしています。
アメリカでは一般的にカウンセリングを受ける人が多く、重圧を抱えるシリコンバレーのビジネスマンは約8割がカウンセリングを受けていると言われています。しかし、日本ではカウンセリングはそれほど浸透していません。日本でも気軽にカウンセリングを受けられる社会になればいいと思うのですが、岡野さんはコーチ業の立場からどのように考えますか?
確かに、日本ではまだまだカウンセリングに対する敷居は高いですよね。少し心の不調を感じた段階でケアをすれば早く元気な状態を取り戻せますが、日本ではアメリカに比べて「カウンセリングを受けて早くケアをする」という意識が社会にも個人にも少ない印象を受けます。「カウンセリングは弱い人が受けるもの」という偏見もあるように感じますしね。メンタル面での不安要素を早期に取り除くシステムがアメリカに比べて十分でないのは日本の課題ではないでしょうか。
起業への葛藤を乗り越えて
起業の目的は人それぞれですが、岡野さんはどのような思いから起業したのですか?
やはり自分の体験が大きいですね。「働き続けるために何が大切か」との問いの答えを探す中で、植物療法士や薬膳、コーチングなど、さまざまな資格を取りました。スクールに通ったり、インスタグラムでの発信をしたりする中で人とのご縁やチャンスを頂き、今の仕事につながっていきました。現在の個人事業を興す前には共同事業にチャレンジしたこともありますが、一筋縄ではいかないことも経験しました。学んだことすべてが今の自分の糧になっていますね。
岡野さんは会社員を経て起業されたわけですが、会社を退職することに不安や迷いはありませんでしたか?
正直なところ、不安や迷いに押しつぶされそうでした。植物療法士をはじめとし、現在は17の資格を取得していますが、会社員を辞めてから1年ほどで資格取得のために数百万円使ったんです。自分では資格取得の費用は投資だと考えていましたが、当時の貯金をすべて使ってしまったので、ちょっと経済的な焦りを感じたのもあります。しかし自分の可能性に投資したからには回収しなければと思い、自分を鼓舞していた部分もありましたね。今思うと、もっと自分に優しく接してあげればよかったです。
個人事業主になるための準備や経営の知識を誰かから教わりましたか?岡野さんはご両親が自営業をなさっているそうですが、ご両親から経営のアドバイスなどはあったのでしょうか?
それが実は、両親からはほとんどアドバイスはなかったんです。母は、私が会社員を辞めることに最初驚いていたくらいです。母いわく、「会社って保障があってお給料がいただける場所。ある意味恵まれているのに、辞めるのはもったいないんじゃないか」と。しかし、私が「人生で初めてやりたいことに出会えたから、挑戦してみたい」と言うと賛成してくれました。父はもともと私の考えを尊重してくれるタイプだったので、反対はしませんでした。
個人事業を興してからは、経営方法、経理関係など、その都度その都度手探りで経営してきたので、個人事業を行っていくための知識を体系的に学べる場所があればよかったなと思います。
インプットとアウトプット、仕事とプライベートのバランス
岡野さんのインプットとアウトプット、仕事とプライベートのバランスを教えてください。
私の事業は、毎月同じ仕事量ではなく、ご依頼の多い月と少ない月とのバラツキがあります。ただ、仕事がない時はお休みではなく、自己学習してインプットしたり、インスタグラムで発信してアウトプットしたりしています。ずっと仕事モードと言えばそうですし、インプットは自分のためでもあるので、プライベートの要素もあります。あまりオン・オフは意識していないので仕事のプライベートのバランスというと難しいのですが、仕事量を見ながら生活の中に仕事を組み込んでいる感じです。プライベートでは自然に触れる時間を大切にしています。
起業している女性の睡眠時間は短いと言われます。子育て中の方も毎日睡眠時間が6時間以下の方が少なくありません。岡野さんはどのくらい睡眠時間を取っていますか?
私は7~8時間は寝ています。心身を健やかに保つためにも、睡眠は大切ですので、仕事をやりくりして睡眠時間を確保するようにしています。
サステナブルに働くために
フランスとアメリカの起業は違うと聞きます。アメリカ型の起業では、アメリカンドリームという言葉もあるように、上場して会社を大きくするが目標とされています。しかしシリコンバレーの例を見ると、最初に多額の投資するものの、途中で買収されるなど、企業の5年後の存続率が低いと聞きます。アメリカでは投資家の影響も大きく、起業家のプレッシャーも半端ではないと聞きます。かたやフランスでは、「小さく経営し、長く続ける」イメージで、1~3人の従業員でほそぼそと経営する形が多いんだそうです。(※)岡野さんは、日本ではどのような起業の仕方であれば女性が働き続けられると思いますか?
個人事業を行う上で大切なのは、どのように働いていくのが心地よいか、自分が明確にイメージを持っておくことではないでしょうか。私もフランスの起業のイメージに共感します。自分の無理ない範囲で経営していこうと考えています。女性はライフイベントや体調の変化の大きい性ですので、自分や家族の変化に対応しつつ働くには、経営も「細く長く」続けていくのがいいのではないでしょうか。
※アメリカとフランスの起業イメージについては、インタビューを行った池田梨恵子(同志社大学大学院)が2018年度より日本とフランスにおける産官学連携クラスターの比較調査研究に携わる中で、スタートアップ企業や支援機関から得た情報を基にしています。